2019年12月新刊 旅人五行歌集『真珠層』
【書誌情報】
書 名:『真珠層』 著 者: 旅 人 四六判・上製・160頁 定価1,320円(本体1,200円+税10%) ISBN978-4-88208-168-5 発行日:2019年12月24日 |
◆◇哀しみの上の底深い交響◇◆
彼女は、心、意識が立っている人である。なかには、寝ている人も、座している人も、歩いている人もいるが、心、意識の立った人は、追及する意思が明瞭で、それぞれの対象に対する感動をとことん造型する。その感動の質が別物であって、かつそれぞれに印象的である。それが響きを複雑にし、協奏させ、交響詩とするのである。
言い難い哀しみとは違って、その哀しみを背景として「凍る花火」のように明解で際立った詩とする。それらの感動は、どこかでつながっているから交響するが、その中心にあるのがいのちであろう。
(五行歌の会主宰・草壁焔太跋文より)
◆◇著者プロフィール◇◆
旅 人(たびと)1967年國學院大學国文科2年中退
2012年五行歌の会入会
朗読「ことばの舟」所属
現在、五行歌の会同人
五行歌・ 池上サロン代表
◆◇目次◇◆
マウスを握りながら
草木の祭り
春
夏
秋
冬
アユタヤの菩提樹
命
白湯
通奏低音
真珠層のように
無音
掬う
呼吸
風が水の粒を
聴く
観る
一 村 Isson
跋 哀しみの上の底深い交響 草壁焔太
あとがき
◆◇著者より◇◆
今は四十になった娘たちと夫を、柔らかな気持ちが穏やかに包み込む。私と夫を結びつけたのは伴侶を喪った者の哀しみ。今でも通奏低音のごとく響き続けている。
途絶えることのない思いが重なり、いつの間にか真珠のように層を作っていく。表題を『真珠層』に決めた。迷いを払拭したのが十五年前の言葉だったとは…。お願いしていた前田さんの挿し絵が仕上がってきた。雨に濡れる仁王門から光がさしている。緑と門と石畳が混然一体となって小宇宙をつくる。光の門へ歌が入っていく。
(著者 あとがきより)
◆◇収録歌 紹介◇◆
私は
アユタヤの菩提樹
足元の仏頭を
遥かな年月抱き続けたように
みどりごを抱く
介護をする
母の枕辺で
読み続けた本が
私を
つくっていた
マイナス8度の阿寒湖に
花火が上がる
サラサラ サラサラ
舞い降りながら
凍っていく
ブナの林に
陽が射し込むと
蜉蝣が一斉に乱舞しはじめる
命をかけた恋に
迷いはない
哀しみの
通奏低音を
抱えて
二人で
生き続ける
言葉に
できない想いが
真珠層のように
重なって
人を創る