遊 子五行歌集『薔薇色のまま』
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書 名◇『薔薇色のまま』
四六判・並製・262頁 定価1,320円(本体1,200円+税10%) 発行日:2017年3月25日 ISBN978-4-88208-146-3 |
◆◇著者プロフィール◇◆
遊 子(ゆうこ)
本名・田沼(旧姓木村)まち子
1947年福島県平市(現いわき市)生まれ
1965年福島県立磐城女子高校卒業
1969年千葉大学教育学部卒業
2000年五行歌の会入会
2002年長野県小諸市に「こもろ五行歌の会」を発会し代表となり、現在に至る。
◆◇涙あふれるまでの完成度◇◆
一つの歌集を読むとき、当然、一つの思いが走る。この歌集の場合、完成度の極限にまで高い歌が、そこここにあることである。私の場合、読むにしたがって、まぶたの裏に涙がたまり、あふれんばかりになった。これが、歌集を読んできたいままでの経験にない不思議な気持ちであった。
内容はそう感傷的とはいえない。しかし、この作者の気持ちはそれらの歌に十分入っている。その短い歌に注ぎこまれていて、読み手の感情を誘うように出来ているのであろうか。
「ただいまぁ」の
声に
信州は
山の緑
空の青
青空一枚で
折った鶴を
浅間のてっぺんから
世界中の空へと
飛ばしてみたいよ
黒のキャンバスに
緑
緑
緑
ふきのとう
春の太秦に
旅をした
ほほほ、と
菩薩が
ほほ笑んだ
これは
念仏だ
天を劈く
蝉の
咆哮
陽だまりの中で書く
年賀状に
ほほ笑み
ひとつ
書き添える
こういう歌が、私の中にあふれるような感動をもたらしたのである。私としてはそれ以外の言葉はなにも言わなくてもいいとも思う。しかし、なぜかということを推し量るのが、この本を読もうとする人々への私の務めかとも思われる。
歌の完成度にもいろいろあって、遊子さんの場合、まずは歌が徹底して短い。ということは、気持ちや思いを絞り込み、極限にまで達したところで歌にしているのである。
彼女のもう一つの特長は技術を用いないことである。
ここまで完成度を出しているのに、技術は彼女の心のなかにない。それがかえって感動を誘うのかもしれない。世人は歌をどう書くかについて考えるとき、技術というものはあると考える。それは確かにある。しかし、ほんとうに自分の気持ちを表そうとする人で、それを使わない人もいる。
人が見たいのは心であって技術ではないから、それも一つの行き方である。
(五行歌の会主宰 草壁焔太 跋文より)