2011年〜2015年の五行歌秀歌集
書 名◇ 『五行歌秀歌集3』
’11〜’15 編 者◇ 草壁焔太 A5判・上製・588頁 定価2,546円(本体2,315円+税10%)) 発行日 2016年12月25日 ISBN978-4-88208-144-9 |
◆◇編者プロフィール◇◆
草壁焔太(くさかべえんた)
1938年 旧満州大連生まれ、9歳のとき小豆島に引揚げる。
東京大学文学部西洋哲学科卒。
1957年 19歳にて五行歌発想 1994年 五行歌の会創立。同人誌月刊『五行歌』を創刊。
主な著作 五行歌集『心の果て』『川の音がかすかにする』『海山』『人を抱く青』
五行歌論集『飛鳥の断崖』1998年、『散文人間・韻文人間・データ人間』1990年、『もの思いの論』2009年、『すぐ書ける五行歌』『五行歌 誰の心にも名作がある』以上市井社
『五行歌入門』東京堂出版(2001年)、 東京都在住。
◆◇五行歌秀歌、圧巻の2,026首! ◇◆
草壁焔太
永遠も
我々とともに
今を超えていかなければ
未来に
到達できないのだ
三好叙子
夜をわたってくる
かすかな
槌音
耳をすますと
私の胸の槌音だった
2011年〜2015年の五行歌秀歌2,026首を編纂。
収録歌人669人。588頁。新詩形五行歌の渾身の一冊!
五年毎に刊行の秀歌集シリーズ第3冊目。
五年毎に刊行の秀歌集もこれで第三冊目となった。先に東京堂出版から出版された『五行歌の事典』が最初の秀歌集にあたるから、これは事実上四冊目に当たる。
今回は五行歌運動が二十三年目に入っているということもあって、歴史的な厚みも感じた。作品はそれぞれに向上しており、新しい才能も多くデビューしたが、やはり世の変化が予想以上に歌にも反映している。
その反映が決して望ましいように思えないのも、この時代の特徴であろう。たとえば、季節が曖昧になり、とくに「秋」が短くなった。この影響は如実に現れ、秀歌集3では非常に小さな巻となっている。秋の歌は確実に減っているのである。
もう一つは、日本の短詩型の花であった恋歌が減っている。これは映像の文化がインターネットの普及で、あけすけになり、なんでも見られるようになって、ロマンがなくなったためであろう。歌だけでなく、文芸からも恋はなくなっており、その逆現象のように夫婦関係が、存在感を増してきたように思える。
こんなおかしなことは、どんな未来予想者も思いつかなかったろう。
インターネットからは、文化は生まれないというのが私の持論である。そこには尊敬心が生まれない。したがってブームは生まれるが、人が大事にするものが生まれないのである。ネットによる革命がすぐ跡形もなくなってしまうのも、このせいである。
恋歌がすくなくなり、ロマンがなくなったのも、このせいだが、私ら現代人はとりあえずこれに巻き込まれているほかに方法がない。
したがって、五行歌は「恋の五行歌」募集で初期の五行歌人を作ったが、いまではその公募は行っていない。重大なことだが、手の打ちようがないのだ。
恋歌は半減し、男女の歌、夫婦の歌が増えた。性的な神秘がなくなるや、夫婦のきずなのほうが重大になってきたというのは頷ける。
一方で、孫歌は多くなったが、その孫歌のなかに曾孫歌が散見されるようになった。これも当然であろう。高齢者が多くなるのだから、孫、幼子の歌は当然多くなる。輝くものは若い命だからである。
それがそこに止まらないのが、現代社会の変化である。子、孫、曾孫、玄孫という縦の線での変化だけでなく、これに代わるペットの歌が増えて、ついに秀歌集3から、一つの巻が立った。平安朝には皆無に近かったペット歌が一巻となる、こういう事態はほんの数年前にも予想しがたかったのである。だが、ペット歌人はペットを第一の友として歌を書く。やはり心がこもれば歌はいい。
これも人類の生活が豊かになったおかげと思おう。
三十年前の辞書に「介護」という言葉がないという歌があったが、第三十五巻の介護についても同じことが言える。また、高齢化に伴って療養、看護、介護の歌も増えてはいるが、それについても超高齢の方の高く強い精神力が示されていることが多い。
ここまで精神は強いのか、と感嘆させられる高齢者、療養者の歌が秀歌集の一つの中心となっている。このことも、いままで予想されなかったことであろう。
高齢化は悲劇というより、精神のピークといえるようになりつつある。九十代に至るまでは、老いを語るのは子どもじみているとさえ、思われる。これも人類の進歩であろう。いや、五行歌の進歩といえるであろうか。
災害については、秀歌集2に東日本大震災の発生の歌を収容したが、それでもこの本にも二つの巻をたてることになった。災害と原発事故の巻である。今回も締め切ったあとに熊本地震があったが、これは含めないことにした。それでもかなりの量になっている。
予想外のことが、それも迷惑な方向に起きてくるということは、現在の世界についても言える。欲望むき出しの国家間、民族間の争いごとも今後心配である。
秀歌集2のまえがきには、この秀歌集3には世界五行歌を載せたいと書いたが、この間、私は世界への五行歌普及をさしあたり中止したため、その約束は果たせない。わずかにタイのナワスィー氏の歌を一首載せただけである。
世界に五百人ほどの五行歌人を作ったが、私がそこに行っていないと、続けて書かない。これを見て、当座は日本で活動することにきめたのである。
私はいままでに十万人くらいの方に五行歌を紹介したが、そのうちの千人くらいが今五行歌を熱心に続けているように思う。つまり熱心な方は百人に一人の方で、相当にレベルも高い。この秀歌集3は、その意味で私のかねての目的を達成したともいえるほどのものである。
私は、こういうことを望んできた。この言葉による表現の厳しさ、豊かさは、現代の芸術活動を代表するものであろうと確信する。詩歌の世界でもこれ以上の豊かな生産はなかったのではないかと思うほどだ。
次回の秀歌集4は、私が八十三歳になっていることになるので、はたしてどうなるか予想しがたい。私としては、そこまでは私がやるべきではないかと思っている。
五行歌は、最近、小中学校で盛んに書かれるようになった。埼玉の三つの中学では、毎週二首ずつ書く教育が行われている。いままでそういう教育を受けた生徒がここだけで四千人にも達している。
今後ますますこの傾向は、強まってくると思う。五行歌人であることを意識している十代の歌人も十数人はいる。これこそは予想外の最も嬉しいことである。
(編者 序文より)
◆◇目次 紹介◇◆
秀歌集3の序
凡例
巻一 永遠・天体・自然・時間
巻二 自分
巻三 災害−地震津波
巻四 災害−原発事故
巻五 春
巻六 夏
巻七 秋
巻八 冬
巻九 恋
巻十 恋
巻十一 女
巻十二 男
巻十三 夫婦
巻十四 夫婦
巻十五 赤子・子育て
巻十六 父母・親
巻十七 子
巻十八 動物・植物
巻十九 ペット
巻二十 子ども五行歌
巻二十一 心・思い
巻二十二 思い・心理・欲求
巻二十三 人
巻二十四 人
巻二十五 日常
巻二十六 食・嗜好・スポーツ
巻二十七 家族
巻二十八 孫
巻二十九 幼子
巻三十 少年少女
巻三十一 社会
巻三十二 仕事
巻三十三 歴史・世界・戦争
巻三十四 闘病・療養・ハンデ・高齢
巻三十五 介護
巻三十六 生命・人生
巻三十七 日本・地域・思い出
巻三十八 旅・風景
巻三十九 美・真・芸術・本
歌人索引
五行歌の歴史・五行歌を書きたい方へ
※現代の本では、各章に分けるというだろうが、和歌集の伝統と無縁ではないので、当初、巻物であった書籍の文化を偲び、五行歌秀歌集シリーズでは「巻」という言葉を残すこととしている。