2015年11月の新刊!
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書 名 ◇ 『踝になみだ』
著 者 ◇ 秋葉 澪 価 格 ◇ ¥1,200+ (税) 四六判変形・並製・266頁 定価1,320円(本体1,200円+税10%) 発行日 2015年11月19日 ISBN ISBN978-4-88208-138-8 |
◆◇著者プロフィール◇◆
秋葉 澪(あきば・みお)
東京都生まれ
1999年より所沢歌会参加
2001年五行歌の会入会
五行歌の会同人
著書『五行歌集 鎖骨の水溜り』(文芸社)
◆◇ ウィットでどこまでやれるか ◇◆
私は歌の条件の一つとして、「いままでに見たことのないもので感動させる」ものと言っているが、彼女の集はそれで成っている。その歌のどれにも、新しいものの見方と表現があり、しかもよくわかる。
(中略)
こういう頭のよさは、どんなものかと思うが、彼女のまえがきを読むと、体にいくつもの目があるという感じである。体の各部分にも目があり、脳があるという感じだ。そう思うと、この驚異的な発想の自由さも納得できる。しかし、誰かが試みても、模倣は不可能であろう。
それは、感覚細胞の違いのようなものかもしれない。また、その違いは言葉の調にもある。秋葉さんといえば、「ましたん五行歌」で有名である。
うなだれてる君の
背中押して
ついでに
押し倒しちゃい
ましたん
これを見たとき、私は自分の予想していた五行歌を完全に破られたと思ったものだが、この歌にも見るコケティッシュで、ちょっと甘えた感じの、女性のカタコト風の言葉の調が独特で、この発想力はこの調にも乗っている。優れた感覚と頭の機転を運ぶのがこの調である。
彼女自身はこの「ましたん」があまりにも有名になって、いやなレッテルと思っているようだが、この発想の多様さを運ぶ動力のようなものと言うことができる。それが自由の源である。
しかし、結婚して、生活して、…人生を過ごすうちに、彼女のテーマにも大きな変化があった。当然である。ウイットと明るさとコケットリーで毎日を楽しく運ぶための、戦いが厳しくなった。
今度の歌集は第一歌集の『鎖骨の水たまり』と比べて、生活の側面が多く入り、秋葉澪の世界にも所帯が入ってきた。なみだも入ってきた。
さらに、実の母の介護をするという人生最大の試練も入ってきた。
その章題は「介護は/メリーゴーランド」という。
倒れる前に煮上がった
母の金時豆を
一粒一粒
泣きながら
食べる
私は彼女の調ですべてがうまく行き、彼女の歌がいつまでも最高の明るさであってほしいと思っていたが、それは無理というものだった。彼女の歌にも深みがなければならなくなった。もともとこの調は、強さがなくては続けられないものではあるが、それだけでもすまなくなってくるのが人生である。
自由奔放は、かならずチェックを受け、声を呑むときがくる。
それでも彼女は明るく処理しようと努めるが、そういう自分の明るさを道化と思い、道化の笑の下に隠したなみだが踝に溜まっていると感じる。
(五行歌の会主宰 草壁焔太 跋文より)