2022年10月新刊『ヒマラヤ桜』
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【書誌情報】
[そらまめ文庫 か2-1] 書 名: 五行歌集 『ヒマラヤ桜』 著 者:神部和子 新書判・並製・128頁 定価880円 (本体800円+税10%) ISBN978-4-88208-197-5 発行日:2022年10月25日 |
◆◇神部和子五行歌集◇◆
歌集で伝わってくるのも、そのひっそりとした存在感で、それがなんともいえず、よいのである。
そのひっそりとした世界に、すっと引き込まれるように歌集を読む。こういう、うたびとっていいな、と思う。その静けさや、人を安心させるおだやかな日常性までが、彼女の体と同化しているように感じられる。
射ぬくような
閃光
雷鳴の一撃
雪野原は
身じろぎもしない
どんな激しさも、その世界に呑み込まれてしまい、何も変らず、ひっそりとそこにある。
神部さんの歌で、私が最も記憶している歌で、人の愛というものを歌った歌としてよく例にあげる歌がある。
二羽だけ
よりそって飛ぶ
白鳥
青空の
かなしみ
二羽で飛べば、うれしいはずだが、それはかなしみともいえる姿なのである。
ふつうそれは幸せの頂点のように言われる。しかしそれがかなしみの一つとなって、いのちが切なくも美しく見えてくる。
◆◇著者プロフィール◇◆
神部和子(かんべかずこ))
1949年 秋田県湯沢市に生まれる
2000年 五行歌の会入会
現在 雪葩五行歌会会員・五行歌の会同人
◆◇目次◇◆
1.雪明かりの誘い
2.森の深み
3.団塊の世代
4.ブラックホールのさみしさ
5.ヒマラヤ桜
6.カマキリの瞑想
7.親子が三人
8.五才のお殿様
9.冬の月
10.肉太の文字
跋 ひっそりとした雪野 草壁焔太
あとがき
◆◇収録歌 紹介◇◆
湧くように降る
雪
わたしを
侵すほどの
ことばが欲しい
引き締まった
寒気のなか
真白く咲くという
ヒマラヤ桜に
憧れている
深い沈黙の
冬の
夜半
この世のことに
答えはない、と
冬をはじく
鰤カマの
湾曲
俎板のうえで
青光りする
いつも良い人、では
だめなのだ
創るとき
一瞬でも
狂わなくては
狐が
人の貌して
ひょいっと
振りむいた
ゴルフ場に続く草原