2022年2月新刊 『博物詩』
【書誌情報】
書 名:五行歌集 『博物詩』 著 者: 三隅美奈子(みすみみなこ) 四六判・並製・210頁 定価1,210円 (本体1,100円+税10%) ISBN978-4-88208-191-3 発行日:2022年2月1日 |
◆◇三隅美奈子五行歌集◇◆
三隅美奈子さんの作品を初めて見たのは、読売新聞神奈川版の五行歌欄への投稿からであった。
すかすかの
夏の昼月
段ボールの
ような
ビルの上
おそらく、これは最初の投稿歌じゃないかと思う。ああ、詩人だなあと思った内心の興奮をよく覚えている。夏の昼月と段ボールのようなビルの取り合わせがなんともいえない。ビルはわれらの文明のシンボルだが、所詮は段ボールですよと言っているようでもある。それとなんとない倦怠感。
少ない言葉で、尽きない思いに誘う言葉、それが詩である。そのうえ、勝ち誇ったような詩語を使ってもいない。ふだんの言葉である。だからなお深く驚くのだ。
彼女が五行歌の会の会員になり、同人になり、もう十六、七年になる。この間、彼女は素晴らしい詩歌を書き続けてくれた。私の憧れのような期待は、実現した。それがこの歌集である。
(中略)
三隅さんは、身辺のあらゆることについて、解釈を与え、物語にした。だから『博物詩』というタイトルは、その総体にぴったりである。何度も何度も玩味するにふさわしい。何度読んでも、新しい意味が湧いてくるような気がする。
(五行歌の会主宰草壁焔太・跋文より)
◆◇著者プロフィール◇◆
三隅美奈子(みすみみなこ)
1957年 茨城県古河市に生まれる
1980年 大妻女子大学国文学科卒業
2005年 五行歌の会に入会
神奈川県在住
◆◇目次◇◆
虫
花
人
季
遊
宙
我
時
跋 少ない言葉で尽きない思いに誘う── 草壁焔太
あとがき
◆◇収録歌 紹介◇◆
二十億光年を
一キラリと名付けよう
キラリ キラリ
そんな長さで流れていくのだ
宇宙の河は
すかすかの
夏の昼月
段ボールの
ような
ビルの上
時も
道草していたんだね
遊んでも遊んでも
暮れなかった
子供の頃の夏の日
砂時計の砂は
落ち続け
砂漠をつくる
瞬く間に
未来を侵食していく砂漠
散り頻るイチョウ
今 ここは
合わせ鏡の世界
どこも どこまでも
黄色 黄色 黄色
草履を引きずり
たもとを引きずり
飴を引きずり
その子を引きずり
七五三が行く